事務所移転費用は経費計上できるか?勘定科目と仕訳の仕方・会計処理方法を解説
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「事務所を移転する際の費用は経費計上できる?」
「経費として計上する場合の勘定科目と仕訳の仕方や会計処理方法は?」
事務所の移転を検討している人の中には、このように移転費用の経費について疑問や興味を持っている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、事務所移転に必要な費用が経費計上できるのかという基礎的な知識とともに、移転にかかる費用とその相場、勘定科目と仕訳の仕方・会計処理方法などを解説しています。
この記事を読む事で、事務所移転にかかる費用や経費として計上する場合の基礎知識を身につける事が可能です。その知識をもとに、移転にかかった費用を適切に会計処理できるでしょう。
事務所移転を検討している人は、ぜひこの記事をチェックしてください。
事務所移転費用は経費計上ができるのか?
現在使っている事務所を何らかの理由で移転・引越ししなければいけなくなった場合、思った以上に費用がかかってしまうケースは珍しくありません。そのため、できる限り経費を押さえたい、節税したいと考える人もいるでしょう。
そこで気になるのが、事務所移転にかかる費用の中で経費として計上できるものがあるのかという点です。ここからは、そもそも事務所移転費用は経費計上ができるのかどうかについて解説していきます。
事務所移転費用は経費計上できる
基本的に旧事務所と新事務所のそれぞれでかかった費用を経費として計上できます。
特に旧事務所関係でかかる移転費用は引越しそのものの費用だけではなく、原状回復工事・不用品処分に関する費用も経費計上可能なため、どの部分が経費計上に相当する費用なのか把握しておく事が大切です。
自宅兼事務所を移転する場合は家具などの費用は家事按分が必要
自宅兼事務所を移転する場合に経費計上できるのは、業務部分のみとなります。
そのため、プライベートで使用している家具の購入や移動にかかる費用は、事務所関連の費用のみを経費にする・まとめて引越した費用の中から割合を算出するなど、家事按分をしなければいけません。
事務所移転費用の相場(旧事務所関係)
経費計上できる事務所移転費用の中で、旧事務所関連のものとして挙げられるものとしては、大きく分けて3つあります。
ここからは、旧事務所関係の事務所移転費用の相場について解説します。
費用 | 相場 |
---|---|
原状回復工事費:小規模事務所 | 坪3~6万円程度 |
:大規模事務所 | 坪5~10万円程度 |
不用品処分費用(東京23区の場合):事業系一般廃棄物 | 1kgあたり40円程度(上限) |
:産業廃棄物 | 1t車で1~7万円程度、2t車で1台7~8万円程度 |
引越し費用 | 1人あたり3~5万円程度 |
原状回復工事費
旧事務所を出る際は、その事務所を使う前の状態に原状回復させる必要があります。工事範囲は契約書に記載されているため、よく確認しておきましょう。
費用相場としては、小規模事務所はおよそ坪3~6万円程度、大型事務所は坪5~10万円程度となっています。
不用品処分費用
事務所移転をする際に不要となったオフィス家具や備品、書類などを業者に頼んで処分してもらう事があります。
東京23区の費用相場は、事業系一般廃棄物は上限が1kgあたり40円(2023年10月から46円)で、産業廃棄物は1t車1台で1~7万程度、2t車1台で7~8万円程度とされています。
出典:事業系一般廃棄物処理手数料の改定について|中央区
参照:https://www.city.chuo.lg.jp/documents/5404/20231001kaiteichirasi.pdf
引越し費用
運搬する荷物の量や大きさによっても異なりますが、一般的な費用相場は社員1人あたり3~5万円程度になる事が多いでしょう。
引越しを自分たちで行えばコスト削減につながりますが、手間や負担が大きいため、業者に引越しを依頼し、経費として計上した方がよいでしょう。
事務所移転費用の相場(新事務所関係)
旧事務所から引越しただけでは事業所移転は完了せず、新事務所でも移転に関連した費用が発生します。
ここからは新事務所関係の事務所移転費用の相場を紹介するため、参考にしてください。
費用 | 相場 |
---|---|
不動産取得費用:前家賃 | 賃料1ヶ月分程度 |
:敷金 | 賃料の4~12ヶ月分程度 |
:礼金 | 敷金と同じ場合が多い |
:仲介手数料 | 賃料1ヶ月分程度 |
:火災保険料 | 2年契約で2~3万円程度 |
不動産取得費用以外の費用:レイアウト・内装工事費用 | 事務所の規模の大きさやグレードなどにより異なる |
:インフラ設備費 | 事務所の規模の大きさやグレードなどにより異なる |
:什器等購入費用 | 事務所の規模の大きさやグレードなどにより異なる |
その他の移転費用:移転告知費用 | 1人あたり1~2万円程度 |
:官公庁への届出書類作成費用など | 10~20万円程度 |
不動産取得費用
不動産取得費用とは、新しい事務所を購入・賃貸借契約する時にかかる初期費用です。主に「前家賃(賃貸借の場合)」、「敷金・礼金」、「仲介手数料」、「火災保険料」などが挙げられます。
それぞれの費用相場は、以下のようになっています。
・前家賃:賃料1ヶ月分程度
・敷金:賃料の4~12ヶ月分程度
・礼金:敷金と同じ場合が多い
・仲介手数料:賃料1ヶ月分程度
・火災保険料:2年契約で2~3万円程度
不動産取得費用以外の費用
不動産取得費用以外に発生する費用としては、「レイアウト・内装工事費用」、「インフラ設備費」、「什器等購入費用」などが挙げられます。これらはこだわればこだわるほど費用がかさんでしまうため、注意が必要です。
金額は事務所の規模の大きさやグレードなどにより異なるため、相場は特にありません。ちなみに什器等購入については、リサイクルショップを利用する事で安く抑える事が可能です。
その他の移転費用
広告にかかる「移転告知費用」や官公庁への届出書類代書の作成を依頼した「届出書類作成費用」などが移転費用になるケースが多いです。
費用相場としては、移転告知費用が1人あたり1~2万円程度、官公庁への届出書類作成費用などの場合は10~20万円程度とされています。
事務所移転費用の勘定科目と会計処理(旧事務所関係)
事務所移転費用を経費として計上する場合、内容に応じて勘定科目や会計処理を正しく行わなければいけません。誤ると二度手間になってしまうだけではなく、不要な税金が発生してしまうため注意が必要です。
ここからは、旧事務所関係の事務所移転費用の勘定科目と会計処理について解説します。
原状回復費用:修繕費
原状回復費用は「事務所を元の状態に修繕する」事であるため、勘定項目は「修繕費」です。
ただし、敷金から差し引かれる場合は、借方に「修繕費」と記載し、貸方に「敷金」または「差し入れ保証金」の勘定項目を使いましょう。
不用品処分費用:支払手数料または雑費
通常の不用品の処分費用は、一般的には「雑費」や「支払手数料」などの勘定科目で処理します。
ちなみにパソコンやプリンター、オフィス家具などの固定資産に該当するものを処分する場合は、固定資産台帳へ記載する事で「固定資産除却損」として特別損失で計上する事が可能です。その場合は、廃棄証明書を作成してもらいましょう。
引越し費用:雑費・荷造運賃または支払手数料
引越し費用は妥当な金額であれば「雑費」で会計処理できますが、金額が大きくなった場合は「支払手数料」や「荷造運賃」などの勘定科目を利用する事もできます。
いずれの勘定科目を使うのかは、後から変更できないため慎重に決める事が必要です。
礼金の償却残:費用として処理する事が可能
礼金の償却残は金額によって会計処理が異なり、20万円以下であれば「地代家賃」もしくは「支払手数料」として会計処理する事が可能です。
また、20万円以上の場合は経理処理上「繰延資産」となるため、計上する時は「長期前払費用」として繰越資産に計上し、決算時には経過期間分を償却して費用計上する事になります。
事務所移転費用の勘定科目と会計処理(新事務所関係)
ここまで旧事務所関係の事務所移転費用の勘定科目と会計処理について解説しましたが、新事務所関係でも勘定科目と会計処理を知っておかなければいけません。
ここからは、新事務所関係の事務所移転費用の勘定科目と会計処理について解説します。
敷金:差入保証金として資産計上
敷金は基本的に返ってくるお金として考えられているため、経費としてではなく「差入保証金」として資産計上する事になります。
ただし「差入保証金」はあくまで返還予定部分だけであるため、敷金償却または敷引きなどの返還される予定のない部分は「修繕費」または「長期前払費用」として計上する事が可能です。
礼金:長期前払費用として資産計上
礼金は。20万円以上か未満かによって勘定科目や仕分けの仕方が異なります。20万円未満は一括償却や「地代家賃」で経費計上が可能で、20万円以上の場合は通常5年間の均等償却や「長期前払費用」として処理される事が多いです。
不動産仲介手数料:支払手数料として経費計上
不動産会社への仲介手数料は、「支払手数料」または「雑費」として経費計上できます。引越し費用と同じ扱いとして処理するのであれば、「雑費」として会計処理される事が多いです。
火災保険料:損害保険料として経費計上
火災保険料は「前払費用」または「長期前払費用」としての扱いになります。決済日にその年に支払った分の費用を「損害保険料」として経費計上する事が可能です。
これは火災保険だけではなく、地震保険料も同様の会計処理で対応します。
事務所移転費用を抑えるコツ
事務所移転をある程度自分たちで行ったとしても、どうしても大きな費用がかかってしまいがちです。ただし、ある程度コツやポイントを押さえておく事で、費用だけではなく自分たちの負担も軽減できます。
ここからは、事務所移転費用を抑えるコツを3つ紹介します。
- 居抜きオフィスを活用する
- フリーレントで契約する
- 依頼業者は1社にする
居抜きオフィスを活用する
過去に入っていたオフィスの設備が残ったままになっている居抜きオフィスを活用する事で、什器等購入費用を削減できます。場合によっては内装もそのままになっている事が多いため、レイアウトや内装工事費用も削減可能です。
居抜きオフィスを見つけるタイミングは難しいですが、居抜きオフィスの活用は事務所移転の費用を大きく抑えられるでしょう。
フリーレントで契約する
フリーレントとは、入居してから1ヶ月~3ヶ月間など一定期間の家賃を無料にしている契約形態の事です。家賃自体が下がるわけではないものの、事務所移転の初期費用を抑えられる点が大きなメリットです。
物件のオーナー側にデメリットがない分、交渉すれば比較的応じてもらいやすいでしょう。また、最初からフリーレント契約を提示している物件も増えてきています。
依頼業者は1社にする
内装工事などを依頼する業者は複数から見積もりを取っておく事がおすすめですが、工事の内容に合わせて複数の業者に依頼してしまうと、その分コストが高くなってしまいます。
見積もりは複数の業者を比較検討しつつ、実際に依頼する工事業者はトータルで請け負ってもらえる1社に限定するとコストを抑えやすくなるでしょう。
事務所移転経費は内訳によって処理の仕方が異なるので注意しよう
事務所移転にかかる費用は多くが経費として計上できますが、勘定科目や仕訳の仕方が内容によって異なるため、注意しなければいけません。また、経費として計上できない項目も、会計処理を覚えていなければ思わぬ税金がかかってくる場合があります。
今回解説した記事の内容を参考に、事務所移転にかかる費用の相場や経費の内訳を理解した上で、移転を検討してみてはいかがでしょうか。