制動距離とは?空走距離・停止距離との関係と車の速度や路面状況による違いを解説
- 物流
「制動距離って何?」
「空走距離や停止距離との関係を教えてほしい」
「制動距離って車の速度や路面状態で変わるの?」
このように、普段運転している中で車の制動距離に関する疑問や興味を持っている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、制動距離に関する基礎的な知識の他に、空走距離・停止距離との関係や車の速度や路面状況による違い、制動距離を短くするコツについて解説しています。
この記事を読むことで、制動距離についての知識を身につけることが可能です。その知識をもとに、車を運転する際に空走距離・停止距離との関係や速度・路面状態に合わせた適切な制動距離を取ることができるでしょう。
普段運転していて制動距離について気になる人は、ぜひこの記事をチェックしてみてください。
制動距離とは
制動距離とは、車のブレーキを踏んでから停止機能が利き始め、実際に車が停止するまでに進んだ距離のことを指します。簡単に言えば、ブレーキが利き始めてから車が完全に止まるまでの距離です。
この際のポイントとして、アクセルからブレーキに踏みかえ、実際にブレーキが作用するまでの時間は制動距離に含まれていません。こちらは空走距離と呼ばれるため、あくまでブレーキが作用してからが制動距離となります。
制動が利き始めるまでに空走距離がある
制動距離を知るうえで理解しておいた方がいいのが空走距離です。空走距離とは、運転者が何らかの危険を察知してアクセルからブレーキに踏みかえ、ブレーキが利き始めるまでの距離を言います。
空走距離を踏まえて制動距離が発生するため、制動距離の前には必ずブレーキが利くまでのタイムラグとして空走距離が存在するのです。ここからは、そんな空走距離について解説します。
空走距離は車の速度に比例する
空走距離の特徴として、その距離が自動車の速度に比例するという点があります。わかりやすく言えば、車の速度が速ければ速いほど空走距離が伸びてしまうということです。
これは速度が出ているとブレーキが利きにくくなるという点や、運転者が危険に気づきにくくなる(反応速度が遅くなる)点が理由として考えられています。このため、空走距離を短くしたい場合は速度に注意することが大切です。
出典:自動車の走行速度の低下による交通事故の低減効果等|内閣府
参照:https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/max-speed/k_3/pdf/s5.pdf
空走距離は運転者の反応速度が遅いと長くなる
空走距離は自動車の速度だけではなく、運転者の反応速度でも影響を受けます。これは、運転者が危険を察知してブレーキを踏まないと空走距離が発生しないためです。
よそ見運転や居眠り運転、体調不良などで反応速度が遅くなると、結果として空走距離が長くなりやすくなります。同じように、疲れている時や眠い時も反応速度が遅くなるため、注意しなければなりません。
また、危険察知や反応速度には年齢差や個人差があるとされていて、反応にかかる時間を平均すると0.75秒程度と言われています。
制動距離の計算方法
どのくらいスピードが出ればどのくらいの距離で車が止まるのか、制動距離を知っておけば安全運転や事故防止対策につながります。そんな制動距離には計算方法があり、計算式に必要な情報を当てはめることで簡単に把握することが可能です。
計算式は路面状態やタイヤの状態によって当てはめる数字が異なります。ここからは、制動距離の計算方法について解説します。
制動距離は車の速度の2乗に比例する
制動距離を計算するうえでまず意識しておかなければならないのが、制動距離は車の速度の2乗に比例しているという点です。
走行中の自動車には運動エネルギーがかかり、この運動エネルギーは速度の2乗に比例しています。これに対して車のブレーキは走行速度が上がっても機能が変動することはないため、制動距離はそのまま速度の2乗に比例するのです。
そのため、時速が2倍になると制動距離は4倍に伸び、時速が3倍になると制動距離は9倍に伸びます。
出典:速度規制の目的と現状|警察庁交通局
参照:https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/regulation_wg/1/siryou4.pdf
制動距離は路面状況・タイヤ摩耗度などによる摩擦係数で変わる
制動距離を計算する中で、他にも意識しなければならないのが摩擦係数です。摩擦係数とは、2つの物体が接触した際の面の滑りにくさを表す数値です。この摩擦係数が低いと車は止まりにくく、逆に高いと止まりやすくなります。
そんな摩擦係数は路面の状況やタイヤの摩耗度によって異なり、雨や雪などで路面の状態が悪くなっていたり、タイヤがかなり摩耗していたりすると摩擦係数が低くなりやすいです。特に路面状態は摩擦係数が大きく下がりやすく、制動距離に大きな影響を与えると考えられています。
制動距離の計算式は
運動エネルギーや摩擦係数のことも踏まえた制動距離の計算式は、一般的に「車の速度(時速〇km)の2乗÷(254×摩擦係数)」とされています。
摩擦係数は通常の乾いたアスファルトで0.7~0.9、濡れている場合は0.4~0.6程度とされていますので、これらの数字と車の速度の2乗を当てはめることで、おおよその制動距離を算出することができます。
車の速度と空走距離・制動距離・停止距離の算出例
空走距離と制動距離を踏まえて計算するのが停止距離です。停止距離とは、空走距離と制動距離を合計した距離のことで、簡単に言えば危険を察知してブレーキを踏んでから停止するまでの距離となります。
この停止距離も車の速度によって異なるため、空走距離や制動距離とともに車の速度に応じて変動します。ここからは、そんな車の速度に応じた空走距離・制動距離・停止距離の算出例を紹介します。
出典:速度管理指針|新潟県警察
参照:https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/325068.pdf
速度 | 空走距離(反応時間0.75秒) | 制動距離(摩擦係数0.7) | 停止距離 |
---|---|---|---|
20km/h | 4.2m | 2.2m | 6.4m |
40km/h | 8.3m | 9.0m | 17.3m |
60km/h | 12.5m | 20.2m | 32.7m |
80km/h | 16.7m | 36.0m | 52.7m |
100km/h | 20.8m | 56.2m | 77.0m |
20km/hの場合
車ではかなり遅い速度に分類される20km/hの場合、空走距離は4.2mとなっているのに対して、制動距離は2.2mと空走距離よりも短くなっています。これは速度がかなり遅いことから、ブレーキがかかるまでの時間や距離が短いためです。
そのため停止距離も6.4m程度となっており、比較的早めに停止することができます。ただし、空走距離が長くなることでブレーキを踏む間もなく歩行者や他の車に衝突してしまうリスクがあるため、注意が必要です。
40km/hの場合
40km/hとは車の一般的な速度として挙げられており、一般道でも40km/h指定されているところが多いです。そんな40km/hの場合の空走距離は8.3mと、20km/hの場合よりも2mも距離が長くなっています。
さらに制動距離も9mとかなり伸びており、この時点で空走距離よりも長い距離がなければ車は停止できなくなっていることがわかります。結果的に停止距離も17.3mとなり、20km/hでの停止距離の2倍以上となるのです。
60km/hの場合
車の速度としてはやや早めの60km/hの場合、空走距離は12mを超えてしまいます。さらに制動距離も20mを超えてしまい、車を止めるのにかなりの距離が必要となる状態です。
停止距離も30mを超えてしまうなど、路面の状態やタイヤ、運転手の状態が良かったとしても簡単には車を止められません。このため、早めに危険を察知したとしても、事故を起こしてしまうリスクが一気に高くなると言えます。
80km/hの場合
80km/hとは車で走行できる一般道の最高速度であり、通常の運転ではほとんど出すことがない速度となっています。そんな80km/hの場合の空走距離は16.7m、制動距離は36mにも達し、停止距離は50mを超えてしまうのです。
場合によっては70mを超え、停止するまでに数十秒を要する可能性も出てきます。高齢者や体調不良の場合は危険察知に時間を要するリスクもあるため、危険な速度です。
100km/hの場合
高速道路の制限速度である100km/hで走行した場合、車が停止するまでの距離は100mを超えてしまいます。これは空走距離が20m程度なのに対して制動距離が56m程度と、およそ3倍の距離が必要となることが要因です。
つまり、どんなに早く危険を察知してブレーキをかけたとしても、停止するまでの距離が非常に長くなってしまうため、急停止したとしてもリスク回避には間に合わなくなってしまいます。
制動距離を短くするコツ
車での事故を防ぐためには、制動距離を短くして安全に停止できるようにする必要があります。空走距離は運転者の能力に依存している部分があるため短くすることは難しいですが、制動距離であれば能力に関係なく短くすることが可能です。
ここからは、制動距離を短くするための3つのコツを解説します。
- 雨水で濡れた路面・凍結路面ではスピードを落とす
- タイヤを摩耗がなくグリップ力の高いものにする
- 荷物の積みすぎにも注意する
雨水で濡れた路面・凍結路面ではスピードを落とす
まず気をつけなければならないのが、路面状態が悪い場合はスピードを出さないことです。特に雨水で濡れていたり凍結していたりする路面は摩擦係数が低くなりやすく、ハイドロプレーニング現象と呼ばれる、ブレーキが利きにくい状態に陥りやすくなっています。
このため、路面状態が悪い道路を運転する場合はスピードを落として安全に走行することが大切です。
タイヤを摩耗がなくグリップ力の高いものにする
タイヤが摩耗しているなどグリップ力が低下していると摩擦係数が低くなってしまうため、ブレーキの性能が落ちてしまいます。結果としてブレーキをかけても車が停止するまでに時間も距離も必要となるため、事故を起こしてしまうリスクが高いでしょう。
このため、タイヤが摩耗している場合は交換するなどして摩耗していない状態にするのはもちろん、グリップ力の高いものにすることが推奨されています。
荷物の積みすぎにも注意する
車などの動いているものには必ず慣性の法則が働き、制止するための力は物体の重量に比例します。簡単に言えば、動いているものが重ければ重いほど、制止するためにはかなりの力を必要とするのです。
これを車に例えると、荷物の積みすぎなどで車体が重くなればなるほど、制止するための力も距離も必要となるため制動距離も伸びてしまいます。そのため、荷物の積みすぎにも注意しなければなりません。
安全に車を運転するには
制動距離や停止距離などを振り返ると、車はスピードが出ていてもいなくても、簡単に止まることができない乗り物であることがわかります。そのため、制動距離を短くすることはもちろん、そもそも安全に車を運転することを意識しなければなりません。
ここからは、安全に車を運転するために心がけなければならないポイントを3つ解説します。
- 寝不足や体調が悪い時は運転を控える
- 適切な車間距離を保つ
- カーブ・坂道などの道路環境に応じて慎重に運転する
寝不足や体調が悪い時は運転を控える
寝不足や体調不良など、運転者のコンディションが悪い状態で車を運転すると、判断能力や反応が鈍くなってしまいがちです。そうするとブレーキをかけるタイミングが遅れてしまい、空走距離が伸びやすくなります。
このため、寝不足をはじめとして体調が悪いと自覚している場合は、できる限り運転を控えることが望ましいです。それでも運転しなければならない場合は適宜休憩を取り、車間距離もしっかりあけましょう。
適切な車間距離を保つ
安全に車を運転するうえで必要となるのが、停止距離をしっかり確保することです。車が安全に停止するためには、どんなスピードであってもそれに応じたある程度の距離が必要です。その距離が確保できずに停止してしまうと、前の車などに衝突してしまいかねません。
このため、車を運転する際には適切な車間距離を保ち、安全に車が停止できるように距離を確保しましょう。
カーブ・坂道などの道路環境に応じて慎重に運転する
他にも車を安全に運転するためには、カーブや坂道などの道路環境に応じた運転を心がけることが大切です。特に山道ではカーブや坂道が多くなりやすく、スピードを出していたり車間距離を詰めていたりすると、思わぬ事故に遭遇してしまう可能性があります。
このため、カーブや坂道など通常とは異なる道を運転する場合は、道路環境に応じてスピードや車間距離を普段以上に意識し、慎重に車を走らせることが必要です。
制動距離が長くならないように速度を抑えて安全運転を心がけよう
車を安全に運転するためには様々な知識が必要ですが、その中のひとつとして挙げられているのが制動距離や空走距離など車が停止するために必要な距離です。
これは車の速度や路面状態、タイヤやブレーキの機能、運転者の状態によってある程度変動します。ただ、制動距離に関してはスピードの管理やタイヤの状態のチェック、荷物を積みすぎないことで距離を抑えることが可能です。
そのような知識を身につけて、制動距離をコントロールしながら安全運転を心がけましょう。