2024年問題の解決策とは?物流業界だけでなく荷主や消費者ができることも解説
- 物流
「当たり前のように届いている荷物が、届かなくなるとしたら?」
「2024年問題って何?」
「2024年問題を解決する方法って何かあるの?」
2024年問題が物流業界に大きな打撃を与える可能性があることは、ご存じでしょうか。
今回の記事では、2024年問題と呼ばれる制度改正が、一体どのようなものであるのか。また、その影響がどういった人に対して起こりうるのか、消費者を含め社会全体での解決策について解説していきます。
この記事を読むことで、自国の物流が今どういった課題を抱えているかの理解を深めて、運送企業、荷主、消費者の各方面から解決策を把握できます。
2024年問題を詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
物流業界を揺るがす2024年問題
2024年4月からトラックドライバーの労働環境を改善するため、時間外労働の上限に年間960時間の上限規制や「改善基準告示」により、拘束時間などが強化されます。
これらにより、ドライバーが稼働できる時間が短くなり、運搬できる輸送量の減少が予想できます。慢性的なドライバー不足も相まって、これまでのような運送体系を維持することが難しくなるでしょう。その影響により、物流の麻痺が起こる可能性が示唆されています。
これらの要因をまとめたものが「2024年問題」です。
出典:物流の2024年問題について|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf
2024年問題を引き起こす3つの要因
2024年問題は、主に3つの大きな要因があると考えられています。その原因には、トラックドライバーの時間的な制限や、時間外労働の割増賃金率の引き上げなどがあります。
これらの制限内容に関して、詳しく紹介します。
時間外労働規制による「960時間」という上限
2018年6月に改正された「働き方改革関連法」に基づき、トラックドライバーの業務の時間外労働に年960時間(休日労働含まず)という上限規制が2024年4月から適用されます。
全日本トラック協会のアンケートでは2022年時点で、全体の約29%が時間外労働が年960時間をオーバーすると回答しています。
これまで、トラックドライバーの時間外労働時間に上限は設定されていませんでした。今回、制限がかけられることで、ドライバーの労働時間は減少します。同時に運送可能な距離なども短くなってしまうので、実質的に輸送能力が低下すると考えられています。
出典:物流の2024年問題について|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf
ドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」
ドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告知」によって、ドライバーの拘束時間は、1年間で3,300時間以内かつ、1カ月の拘束時間は284時間以内が原則となります。
拘束時間とはドライバーの労働時間と休憩時間の合計時間です。時間的な制約が発生することで、1日1人のドライバーで運送可能であった距離が2人、又は2日での運送が必要になる場合が考えられます。
そのため、現在の運送形態と同じような輸送は難しくなるでしょう。
出典:トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/2023_Pamphlet_T.pdf
割増賃金の引き上げ
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられたことで、物流を担う中小企業に影響を与えています。2023年4月1日から改正されており、中小企業は割増賃金率が大企業のものと同率となりました。
時間外労働が他企業に比べて多いとされる運送業界で、時間外労働の割増賃金率が上がることは人件費の上昇に直結します。人件費の高騰に耐えられない中小企業が出てくる可能性があるでしょう。
出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
2024年問題が引き起こす影響
2024年問題により、ドライバーの労働時間が短くなり、輸送能力の低下やドライバー不足などの深刻な問題が発生すると考えられています。
輸送側の供給能力が低下することで、全国の物流が滞ってしまう恐れがあります。特に都市部から離れた地方部では、その影響が顕著です。
これは実際に従事するトラックドライバーだけでなく、輸送を依頼する荷主や一般消費者の日常にも直接影響してくることが懸念されています。
ここでは具体的な影響や問題について紹介します。
輸送能力の低下
輸送能力の低下は、労働時間の減少によって顕著に表れるとされています。
具体的な対策を講じなかった場合、2024年度には、輸送能力の約14%にあたる4億トン相当が不足する可能性があると試算されています。また、それに留まらず、その後の対策も講じない場合は更なるドライバーの減少なども見込まれるでしょう。
その場合は2030年度には、輸送能力の約34%にあたる9億トン相当の不足が発生すると試算されています。
出典:5.「2024年問題」への対応に向けた動き|国土交通省
参照:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230406/startup10_0203_03.pdf
ドライバーの労働時間短縮による収入減
ドライバーの収入減少も大きな問題の一つです。時間外労働時間が制限されることで、残業手当も減少してしまいます。
トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比べても低い傾向にあります。収入の減少を考え、離職してしまうドライバーが現れる可能性は決して低くないため、更なるドライバー不足を招いてしまうでしょう。
事業継続の危機に立たされる小規模経営者
運送業界では、多くの事業者が経営的な赤字に悩まされていると言われています。参入事業者数の増加や燃料価格の高騰など、経営コストの増加といった環境の変化によるものです。
少子高齢化による人材の確保の難しさ、労働時間の短縮による影響は小規模な経営事業者に対して、重くのしかかる問題でしょう。厳しい市場環境の中で生き残りを模索していかなければ、事業継続が危ぶまれる事態となっています。
配送関連サービス低下の可能性
運送能力が低下することで、様々なサービスが受けられなくなる可能性も考えられます。消費者が当日配送、翌日配送といった宅配サービスが受けられなくなる場合もあるでしょう。
宅配サービスだけでなく、全国のスーパーなどへの搬入にも影響が考えられます。
配送料の値上げに伴う物価上昇
世界的なインフレの影響もあり、様々な分野で物価は上昇傾向にあります。配送料に関しても例外ではなく、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格の高騰も主な要因といえるでしょう。
中でも原油価格の高騰は、ガソリン価格の高騰に直結しているため、配送料の値上げや物価の高騰が起きたと考えられます。
2024年問題の解決策①運送の効率化
2024年問題によって起きる課題を解決するためには、業界単位での対策を行わなければなりません。中でも、運送の効率化を図ることが問題解決の糸口になると考えられます。
IT技術の導入などの業務効率化によって、無駄を減らすことで労働時間の短縮といった抜本的な改善が見込めます。
運行管理をデジタル化する
運行管理をシステム化することで、アナログ作業を減らし、従業員の負担を軽減するといった方法が考えられます。
実際の運行予定や休憩時間をリアルタイムで管理するシステム、クラウドサービスを利用することがおすすめです。荷物の状況把握などの手間を削減することで、効率的な配送業務を行うことができます。
予約受付システムを導入する
トラックドライバーの拘束時間において、荷物の積み込みや荷下ろしの際に起こる待機時間が負担となっているケースがあります。
解決策として、荷主と連携したトラック予約システムを活用することが、考えられます。予約システムを利用することは、荷待ち時間を短縮し、作業の効率化を図ることができるでしょう。
パレットの活用
作業時間を削減するために、パレットなどの輸送用機器を利用することも有効です。手荷役作業は時間的コストがかかりますが、パレットの利用などで作業時間は大幅にカットができます。
こうした作業環境の改善を行うことで、ドライバーの時間的、身体的な負担を軽減し、より効率的な運行業務にあたることが可能です。
中継輸送を行う
長時間労働の解決策として、中継輸送の活用が考えられます。
現在、基本的な運送は1人のドライバーが全行程を担当する形となっていますが、中継輸送の場合は、この行程を複数人で分担する形になります。担当するドライバーが増えますが、各個人の労働時間を短縮できるでしょう。
2024年問題の解決策②人材の確保
物流業界は運送するドライバーが必要不可欠な企業形態です。そのため、ドライバーとして従事する人材がいなければ成り立ちません。しかし、ドライバーの有効求人倍率は、全職業の平均と比べても高いと言われており、多くの企業が人材を求めていることがわかります。
不足するドライバーを確保するためには、どういった試みが必要なのでしょうか。人材不足の解消方法を紹介します。
労働環境の改善
人材を確保するために必要なこととして、労働環境を整備することが考えられます。
給与体系を含めたドライバーの待遇を向上させることはもちろんのことですが、週休2日制の導入や有給休暇の取得促進など、プライベートの充実も必要事項といえます。従業員が働きやすい環境を作ることで、ドライバー不足の解消へつなげていくことが大切です。
労務管理をデジタル化する
労働時間の管理や契約書の作成など、人手で管理していたものをデジタル化することで環境を整備することも大切です。
システム管理にすることで、ドライバーの自己管理では賄いきれない部分をカバーしたり、人的ミスを防ぐことが目的とされています。労務管理システムなどを利用することは、ドライバーの負担を軽減することにつながり、作業効率の改善が見込めます。
【荷主ができる】2024年問題の解決策
2024年問題を解決するためには、ドライバーをはじめとした運送企業側の努力だけでは難しい問題となっています。
この問題を解決するには、運送を依頼する荷主側からの問題に対する理解や協力が不可欠です。適切な運賃の設定や高速道路の利用など、相互の解決策を模索していく必要があるでしょう。
繁忙期と閑散期のギャップ縮小へ向けた働きかけ
ECサイトの普及など、通年を通して忙しいイメージがある物流業界ですが、イベントのある時期は物流が多くなります。特にクリスマスや年末年始は繁忙期といえるでしょう。最近ではアメリカのブラックフライデーが定着しつつあり、年末にかけての物流需要は増加しています。
こうしたイベントやセールを利用することで、物流の平均化を図るなど供給のバランスを考えていく必要があるでしょう。
消費者のまとめ買い意欲を掻き立てるようなキャンペーンを張る
企業側からのアプローチとして、まとめ買いを推奨するのも配送回数の削減につながります。まとめ買いをすると割引される、といった消費者の購買欲を刺激するキャンペーンを打ち出すのがおすすめです。
まとめ買いによって、個人の注文回数を減らすことで、運送回数の削減につながります。
【消費者ができる】2024年問題の解決策
2024年問題の解決策として、消費者側からできることもあります。EC市場の拡大に伴って、配達物が増加していることから、物流の問題は企業のものだけとは言えない状況です。
まとめ買いを消費者側が率先して行うことで、配送回数を抑えることができます。注文回数を減らすことで、出荷のロスを軽減できるでしょう。
また、再配達の回数を減らすことも重要です。置き配や宅配ボックスの活用、確実に受け取れる日時を指定するなどが問題の解決策となりえます。
2024年問題解決のために利用できる資料やサービス
物流の大きな問題として、2024年問題は多くの人に認知されていかなければならない事案であり、幅広い形で理解を得ることが大切になります。トラック事業者と荷主、消費者を含め、相互協力もまた必要不可欠です。
また、問題解決のため、国からの資料やサービスも数多く用意されています。どのようなものがあるのかを、一例を交えてご紹介します。
取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン
運送業者と荷主の相互協力を、積極的に取り入れるための対応例をまとめたガイドラインを確認してみましょう。長時間労働の改善のため、双方がどういった取り組みを行うとよいかが記載されています。
実際に現場で起きうる事例と、その解決策が載っていますので、改善するポイントを把握しやすいでしょう。
出典:荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン|厚生労働省
参照:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001428590.pdf
厚生労働省「特別相談センター」
厚生労働省は、運送事業者や荷主事業者向けの相談センターを用意しています。ドライバーの長時間労働や労務管理の改善といった相談が、無料で行えます。
ポータルサイトにアクセスすると、相談専用フォームやフリーダイヤルが確認できますので、困った時の相談先として、活用してみましょう。
出典:自動車運転者の兆時間労働改善に向けたポータルサイト|厚生労働省
参照:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/consultation
2024年問題解決には荷主や消費者の理解と協力も不可欠
物流の2024年問題とはどういったものなのか、取り組むべき課題と解決策について考えてみました。時間外労働の上限規制などはドライバーの労働環境を守るために必要な改正ですが、同時に現状の運送状況を維持するために、大きな変革が必要になると予想できます。
問題解決には、運送事業者側からの働きかけが必須です。しかし、荷主や消費者側からの協力もなくてはならない事項であるといえるでしょう。
物流は、全国民の生活水準の基盤ともなる大切な流れです。問題解決に向けて、各々が行動していくことが大切です。