長距離輸送の規制|トラック運転手の労働時間の上限改正の内容と対処方法も解説
- トラックドライバー
「長距離トラック運転手の労働時間が規制で変わるって本当?」
「労働時間の上限改正ってどういうこと?」
働き方改革が進む中、長距離輸送に携わるトラック運転手についても規制が設けられて働き方が変わることになりましたが、どんな風に変わるのかご存じでしょうか。
本記事では一般的な労働者の労働時間や長距離輸送の労働時間の規制、2024年問題について詳しく内容を紹介していきます。この記事を読むことで、一般的な労働時間はどうなっているのか、長距離輸送の労働時間との比較や長距離輸送の規制内容について知ることができるでしょう。
また、2024年問題があること、2024年問題への対応策のポイントなどもまとめているため、2024年問題に備えて対策できるようになるでしょう。
長距離輸送に携わっている方や興味がある方は、ぜひこちらの記事をチェックしてみてください。
一般的な労働時間の規制とは
法律によって働いている人は何時間労働しなければならないのか、といった労働時間が定められています。では、企業に勤めている人の一般的な労働時間はどうなっているのでしょうか。
ここではまず、一般的な労働時間の規則について紹介していきます。
1日8時間・週40時間
一般的には、「1日8時間・週40時間」までが労働時間と定められています。これは「労働基準法の第三十二条」において、使用者(会社)が労働者に対して週40時間を超える労働をさせることを禁じているためです。労働基準法に定められているため、「法定労働時間」と呼ばれます。
法定労働時間に対して、「所定労働時間」というものもあります。所定労働時間とは使用者(会社)が就業規則等で定めた労働時間のことで、法定労働時間内で労働時間が決まっています。
出典:労働基準法|e-Gov法令検索サイト
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
36協定による時間外労働の規制
「労働基準法の第三十六条」により、労働者の過半数または労働者の過半数による労働組合と協定を結ぶことで、残業時間1か月45時間、1年につき6か月まで最大360時間の労働時間の延長が可能となっています。
「労働基準法の第三十六条」によることから、「36協定」と呼ばれます。2018年の「働き方改革関連法改正」により、36協定もこのように改正されました。
出典:労働基準法|e-Gov法令検索サイト
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
特別条項付きの36協定による労働時間の延長
「労働基準法の第三十六条の五」では、労働時間の延長や休日労働を適性にするために特別条項が付けられました。
特別条項では、特別な事情があっても年720時間まで、1か月100時間未満、複数月平均で80時間以内、限度時間を超えて時間外労働を延長させられるのは年6か月までとなっています。なお、休日労働も含まれます。
改正前までは年6か月、上限規制なしで運用されていましたが、改正後は法律による上限ができたため注意してください。
出典:時間外労働の上限規制|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
長距離輸送の労働時間の規制
一般的な労働時間の規則や36協定について紹介してきましたが、長距離輸送のトラック運転手の中にはこの労働時間にあてはまらない、という方も多いのではないでしょうか。
トラック運転手のように自動車を運転することが業務の人の労働時間については、「自動車運転者の労働時間等の改善基準」があります。ここからは、長距離輸送する方の場合の労働時間の規則について見ていきましょう。
2024年3月31日までの猶予期間中の扱い
2024年3月31日までの猶予期間中、運送・物流業界の自動車運転業務には現在上限規則は適用されていません。そのため、1年の拘束時間は3,516時間まで、1か月の拘束時間は原則293時間(最大320時間)、1日の休息期間は継続8時間となっています(2023年7月現在)。
出典:トラック運転者の改善基準告示|厚生労働省
参照:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice
2024年4月1日以降の規制
2024年4月1日以降、トラック運転手には「自動車運転者の労働時間等の改善基準」による制約があります。1年間の拘束時間は原則3,300時間(最大3,400時間)、1か月の拘束時間は原則284時間(最大310時間)となります。
また、1日の休息時間は継続11時間が基本であり(最低継続9時間)、労働時間の改善が図られるでしょう。
出典:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)|厚生労働省
参照:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice
36協定を結んでいる場合の上限
36協定を結んでいる場合の労働時間の上限は、1年につき6か月まで、拘束時間を最大360時間まで延長可能です。ただし1年間の拘束時間の合計は3,516時間(293時間×12か月)までとなっています。
こちらは、2024年4月までの猶予期間中の36協定を結んでいる場合の上限です。
出典:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)|厚生労働省
参照:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice
特別条項付きの36協定による労働時間の延長
猶予期間後は、時間外労働の年間上限は960時間になり、月100時間未満や2~6ヶ月平均80時間以内の規制は適用外となります。また、月45時間を超える時間外労働も年6ヶ月まで制限はありません。
出典:時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
2024年問題とその影響
2024年4月1日より自動車運転業務の時間外労働時間制限が実際に施行されることに伴い、以下で紹介するような影響が起こることが懸念されています。
「2024年問題」と呼ばれているのは、2024年4月1日に猶予期間が終了するためです。どのような影響が懸念されているのか、見ていきましょう。
長距離運送会社の収益の圧迫
2024年4月1日以降は、トラック運転手の労働時間が猶予期間中の現行よりも確実に減ることになるでしょう。トラック運転手の労働時間が減少すればそれだけ物を運べなくなるため、輸送リソースが減って長距離運送会社の収益も減少してしまうでしょう。
長距離輸送運転手の収入の減少
長距離輸送するトラック運転手にも影響が懸念されています。長距離輸送するトラック運転手の労働時間が減ることから、その分収入が減少するでしょう。収入が減るのであれば、他の職業に転職する人が増える可能性もあります。
もともとトラック運転手は人手不足の傾向にあること、2024年問題によって収入が減少する可能性が高いことから、さらに人手不足が深刻になるのではという懸念もされています。
長距離輸送依頼者の負担の増大
現行よりも輸送リソースが減ることから、長距離輸送を依頼する側にとっても輸送を断られたりこともあるでしょう。
また指定通りの時間に輸送されないといった問題が起こるなど、依頼者の負担が増大する可能性があります。
一般の消費者にとっても、必要な品物が届かなかったり届いても遅れたりする可能性があるでしょう。
2024年問題への対応策のポイント
働き方改革による「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の告示は避けられないことから、2024年問題はほぼ確実に起こるだろうと予想されています。しかし、対応策がまったくないという訳ではありません。
ここからは、2024年問題へ向けた取り組みや対応策のポイントを紹介していきます。2024年問題に備えたい場合は、ぜひこちらのポイントを押さえておきましょう。
- 物流システムの効率化
- 運行管理のデジタル化
- 鉄道や船舶利用へのモーダルシフト
- トラックでの共同輸送
- 在庫の一括管理を行うVMIセンターの活用
- 宅配ボックスの設置
物流システムの効率化
2024年問題によって輸送リソースが減ることが懸念されている以上、まずは既存の物流システムを見直し、効率化を進めていくことになるでしょう。
たとえばトラック運転手の拘束時間を減らすための対応策として、荷待ちや荷役作業を短時間にする、荷物の積み下ろしは他の作業員が手伝うなどの工夫があります。
トラック運転手の拘束時間は現行よりもかなり限られるでしょう。時間を無駄にしないため、削減できるところはないか、高速道路の利用なども検討してみましょう。
運行管理のデジタル化
自動車運送事業者は一定の事業用自動車を有していた場合、運行管理者を選任する必要があります。運行管理者はドライバーの乗務割を作成したり、休憩・睡眠施設の保守管理などを行ったりしています。
そこで運行管理のデジタル化によってドライバーの業務割を作成し、より効率的な労働時間になるように改善していきましょう。勤怠管理システムの導入がおすすめです。
鉄道や船舶利用へのモーダルシフト
かつては鉄道や船舶を利用した輸送が中心でしたが、やがてトラックによる輸送が中心になりました。それは輸送コストや輸送時間で、トラック輸送の方が鉄道や船舶を利用するよりメリットがあったためです。
しかし2024年問題に対応するために、昔のように鉄道や船舶を利用する「モーダルシフト」が注目を集めています。
これは鉄道や船舶であれば長距離輸送のトラックよりも大量に物を運べることや、トラック運転手の人手不足の影響を受けないといったメリットがあるためでしょう。
トラックでの共同輸送
複数の会社から同じ行き先への輸送を共同で行うことで、輸送に使う長距離輸送トラックの数や輸送に携わるドライバーの数を減らせます。
ただその一方で追加積載はしにくくなり、輸送ルートが変わることで輸送にかかる時間が増えるといったデメリットもあるでしょう。
在庫の一括管理を行うVMIセンターの活用
積荷を直接メーカーや工場に届ける代わりに、VMIセンターを作り、大ロットの輸送をVMIセンターに集約し、個別の輸送先へは小ロットの共同輸送を行うことで、使用するトラックの台数を削減することができます。
さらにVMIセンターでのパレット納品化により、積み込みや荷下ろし作業を減らすことも可能になります。
宅配ボックスの設置
「宅配ボックス」とは自宅やアパート、マンションなどに設置された荷物の受け取り専用のボックスです。近年では宅配ボックスを設置する家やアパート、マンションが増えてきています。
宅配ボックスがあれば、受け取り人が不在でも荷物を配達できるため、再配達の手間などがなくなります。
長距離輸送の規制の変化に対応して効率化を進めよう
いよいよ働き方改革による、2024年問題がさし迫った問題となってきました。2024年4月1日以降には現在のようにトラック運転手が働けなくなり、輸送を断られたり輸送が遅れたりする可能性が高くなります。
2024年問題をスムーズに乗り越えるためにも、長距離輸送への規制内容を知って、効率的な対応策を行っていきましょう。どのような対策がいいのか分からない場合は、ぜひこの記事の2024年問題への対応策のポイントを参考にしてみてください。