【物流業界】2024年問題の走行距離への影響は?対策や具体例を詳しく解説
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「2024年問題ってよく聞くけど、どんな問題なの?」
「トラックドライバーの走行距離にも影響が出るって本当?」
など、運送・物流業界における2024年問題について、疑問や不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、2024年問題とは何かをはじめ、2024年問題によってトラックドライバーの走行距離に出る影響とその対策について、具体例を挙げて紹介しています。
この記事を読めば、2024年問題がもたらす走行距離への影響に対して、運送会社と荷主が取り組むべき対策を把握できます。その知識をもとにすれば、2024年問題への対策に早期に取り掛かれるため、施行開始に向けて万全の準備ができるでしょう。
2024年問題に不安を抱いている方は、ぜひ本記事をご一読ください。
そもそも物流業界の「2024年問題」とは?
物流業界の「2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行開始により発生する、物流業界のさまざまな課題の総称です。
時間外労働が規制されることで、運べる貨物量やトラックドライバーの給料の減少、物流コストの上昇などの課題が生じると予測されています。
ここでは、2024年問題の具体的な内容について、4つの面から解説しましょう。
出典:「働き方改革関連法」の概要|厚生労働省 愛知労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/jirei_toukei/koyou_kintou/hatarakikata/newpage_01128.html
「同一労働同一賃金」の適用
「同一労働同一賃金」とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者間にある、不合理な待遇差の解消を目指すことの呼称です。
これによって、同じ企業内において雇用形態が異なっても、基本給や賞与といった個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることが禁じられます。
同じ賃金や福利厚生など、労働環境の均衡が図られれば、個々が多様な働き方を自由に選択できるようになるでしょう。
運送・物流業界においても、上記同様、正社員と非正規雇用者間で、基本給や賞与などの待遇面で差をなくす必要が生じます。
出典:同一労働同一賃金特集ページ|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
出典:「働き方改革関連法」の概要|厚生労働省 愛知労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/jirei_toukei/koyou_kintou/hatarakikata/newpage_01128.html
「勤務間インターバル制度」の適用
「勤務間インターバル制度」とは、終業時刻から翌日の始業時刻までに一定時間以上の休息時間(インターバル)を設定し、労働者のプライベートの時間や睡眠時間を確保する制度のことです。
この制度の考え方は、通常の終業時間よりも長く残業していた場合、始業時刻を遅らせることで「休息時間」を確保するというものです。
働き方改革関連法が施行されれば、勤務間インターバル制度の導入が企業の努力義務となります。
長年、長時間労働が問題視されていた物流業界にとって、勤務間インターバル制度の導入は、トラックドライバーのワークライフバランスを整えるという面では、メリットとなるでしょう。
出典:勤務間インターバル制度をご活用ください|厚生労働省 東京労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/interval01.html
時間外労働の割増賃金率の引き上げ
働き方改革関連法の施行によって、2023年4月から、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられました。
それまでは、中小企業における割増賃金率は25%でしたが、4月1日から2倍の50%に引き上げられることにより、労働者であるトラックドライバーの待遇が改善される見込みです。
割増賃金率が上昇すれば、時間外労働での手当が上昇するため、トラックドライバーにとってはメリットになります。しかし、企業側にとっては人件費やコストの負担が増加するため、デメリットになるでしょう。
その結果、コスト増加を避けながら、長時間労働の見直しをするために、残業時間を減らす動きが出てくることが予測されるなど、物流リソースの減少が懸念されています。
出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省 中小企業庁
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
時間外労働の上限規制の適用
通常、労働時間は原則1日8時間・1週40時間までと労働基準法で定められています。
上記の時間を超えた勤務については、臨時的・特別な事情があって、労使が合意する場合でも、原則月45時間・年間360時間、特別条項に合意したとしても、年間720時間というのが現行の法律です。
しかし、トラックドライバーには、業務の特殊性や取引慣行などの問題から、定時に仕事を終えることが難しいという背景があります。
実質、残業時間の上限がない中で働いているため、身体的・精神的負担が大きいというのも、トラックドライバーが抱える問題でしょう。
これらの問題を解消するべく、2024年4月以降、トラックドライバーの時間外労働に960時間の上限規制が設けられます。
この規制が適用されれば、長時間労働が当たり前となっている運送・物流業界でも、労働環境の改善が期待できるでしょう。
その一方で、ドライバーの労働時間が減少すれば、その分運べる荷物の量は減るため、物流資源が減少する可能性があることは否めません。
今後、物流業界には、この規制に対応するための効率的な作業プロセスや、労働力の調整が求められるでしょう。
出典:時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html#:~:text=%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%9D%A1%E9%A0%85%E4%BB%98%E3%81%8D36%E5%8D%94%E5%AE%9A,%E3%81%AF%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82
2024年問題がトラックドライバーの走行距離に与える影響
働き方改革関連法が2024年4月から物流業界にも適用されることで、さまざまな課題の発生が予測されています。
特にトラックドライバーにとって、時間外労働の上限規制が設置されることは、大きな変化と言えるでしょう。
ここでは、2024年問題がトラックドライバーの走行距離に与える影響について解説します。
出典:時間外労働の上限規制と適用猶予事業・業務について|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
走行距離が片道250km以下に減少する
働き方改革関連法の施行によって時間外労働に上限規制が設けられると、トラックドライバーの走行距離は1日約500km以下、往復の場合は片道約250km以下に減少すると考えられています。
この数字は、時間外労働の上限規制が適用されたあとの労働時間などの概算ですが、1日約500kmを超える輸送は難しくなるでしょう。
出典:時間外労働の上限規制と適用猶予事業・業務について|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
出典:トラック運転者の改善基準告示の内容(一覧表)1日の拘束時間|公益社団法人全日本トラック協会
参照:https://jta.or.jp/pdf/kaizen/kaizen_text.pdf
特に長距離輸送への影響が大きい
国土交通省が実施した、トラック輸送状況の実態調査における「業務車両の車種別構成」の項目を見ると、トレーラーと大型トラックがその半数を占めていることがわかります。
また、「1運行における走行距離」の項目でも、他車種の長距離走行の割合が1桁であるのに対し、上記2車種の比率は13%程度というデータが出ています。
この数字から、トレーラーやトラックが、物流業務の大半を担っていると言えるでしょう。
そのため、トレーラーやトラックの走行距離が減少すれば、荷物を受け取るまでの時間が長くなるほか、物流量が少なくなる可能性が出てきます。
場合によっては、作業の流れを変更する必要が出るなど、長距離輸送への影響は大きいと言えるでしょう。
出典:トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)4.トラックドライバー調査の概要(24)(26)|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001409523.pdf
2024年問題による走行距離の減少への対策
2024年問題による走行距離減少への対策に、業務の効率化や運送方法の工夫など、企業側の努力が必要になります。
例えば、1日の走行距離が減少することで運べる貨物量が少なくなれば、運送会社の売り上げが落ちる可能性は高くなるでしょう。
ここでは、走行距離減少によって起こりうる問題への、具体的な対策について紹介します。
モーダルシフトを活用する
モーダルシフトとはトラックだけでなく、鉄道や船舶・航空なども組み合わせて輸送する運搬方法です。
この運搬方法のメリットは、輸送過程をすべてトラックで行うのではなく、他の輸送方法も取り入れることで、トラックの走行距離を減少できるという点です。
道路状況に左右されず、より多くの物流を確保できるモーダルシフトの活用は、今後の物流業界においてとても重要視されています。
トラックの走行距離減少で、年間960時間の時間外労働規制に対応できれば、環境への負荷を減少させることにもつながるでしょう。
出典:モーダルシフトとは|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html
出典:時間外労働の上限規制と適用猶予事業・業務について|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html#:~:text=%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%9D%A1%E9%A0%85%E4%BB%98%E3%81%8D36%E5%8D%94%E5%AE%9A,%E3%81%AF%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82
VMIセンターを導入する
「VMIセンター」とは「納入業者在庫管理方式を用いたセンター」を表す言葉です。
通常であれば、発注内容を決定するのは調達者ですが、「VMI」では納入業者が発注内容を決定します。
共同の物流センターであるVMIセンターを導入することで、一度に大口補充が可能となるため、宅配便や路線便をはじめとする小口混載便の減少へとつながります。
都度輸送・納品がなくなれば、トラックドライバーの労力削減や、効率的な在庫管理にもつながります。
調達物流の最適化を図ることができるVMIセンターの導入は、2024年問題を解決へと導いてくれるでしょう。
共同輸送を活用する
共同配送とは、同じ宛先の配送物をまとめて配送することです。
同じ宛先の配送物が複数ある場合に、1つのトラックやコンテナにまとめて積載・配送する方法で、複数の企業が利用できます。自社では少数しか配送がない荷物の場合、費用や人件費が削減できるという面で有益な方法と言えるでしょう。
この共同配送には、トラックの荷台を分離して活用する方法もあります。中継地点で荷台だけを交換するという方式のため、積み込み作業および待機時間の削減につなげられるなど、今注目されている運送方法です。
運送会社が取り組むべき2024年問題への対策の具体例
ここでは、運送会社に必要な2024年問題への対策を紹介します。
業務の効率化や雇用環境の見直し・運送方法の工夫など、具体例を5つ挙げるため、自社の状況にあわせて取り組めるでしょう。ぜひ参考にしてください。
貨物の輸送時にパレットを活用する
物流業界では、いまだ荷役を手作業で行うことが多く、積み下ろしに時間がかかるため、ドライバーに負担がかかっているのが現状です。
しかし近年では、ドライバーの作業負担や、労働時間の削減を可能にするために、パレットの活用をはじめる企業も出てきています。
「パレット」とは、貨物をまとめて置くための面を持つ台のことです。
パレットの使用には、フォークリフト作業が可能になることで、輸送・荷役・保管全ての作業が効率化されるというメリットがあります。
そのほかにも、ドライバーの身体的な負担や待ち時間の削減ができるため、業務の効率化を図れるでしょう。
運行管理をデジタル化する
安全で確実な輸送をするために、ドライバーの乗務記録の管理や休憩・睡眠施設の保守管理などの運行管理はとても重要です。
また、運行管理には正確性が求められるため、業務の効率化を図る意味でも、デジタル化するのがおすすめです。
ドライバーの勤務時間や健康状態などのデータを、より正確に管理できるため、時間外労働規制にも柔軟に対応できるでしょう。
トラックの予約システムを導入する
トラックの予約システムとは、スマートフォンなどの端末を使用して、ドライバーが倉庫や物流センターに到着する時刻の作業枠を予約できるシステムのことです。
ドライバーにとって、荷役できるまでの長い待ち時間は負担になります。トラック予約システムを導入することで待ち時間を削減できれば、結果的にドライバーの労働環境改善へとつながるでしょう。
また、トラック予約システムの導入はドライバーだけでなく、物流拠点にとってもメリットになります。特に、「トラックバース」への到着車両が分散されることは、大きな利点でしょう。
「トラックバース」とは、荷物の積み下ろしをするトラックの待機場所です。トラック予約システムを活用することで、積み下ろしから配送までの作業場所を確保できるため、待機時間の軽減につながります。
リアルタイムの予約状況が把握できれば、予約時間に合わせて人員を配置して、作業計画を立てることも可能になります。
ドライバーの労働環境や労働条件を見直す
ドライバーの労働環境や労働条件を見直すことで、運送業界の深刻な人手不足の解消や、継続して働き続けてもらう人材の確保につながります。
長年、運送業界は他の産業と比べて低賃金・長時間労働であることが問題視されてきました。2024年問題によって、ドライバーのさらなる人手不足が予測されています。
給与体系のみならず、福利厚生や労働環境を改善することで、より多くのドライバーを確保することができ、安定した荷物の輸送が可能となるでしょう。
「中継輸送」を導入する
「中継輸送」とは、1つの運行を1人のドライバーが担当するのではなく、複数人のドライバーで分担して運行する輸送方法のことです。
運行ルートに中継地点を作ることで、ドライバーの日帰り勤務が可能となり、長距離運行に伴う時間外労働の軽減や、ドライバーの休息・睡眠時間の確保へとつながります。
いくつか種類がある中継輸送の中で、ドライバーの時間外労働削減に大きくつながるとされるのが、複数人のドライバーがリレー形式で同じトラックを運転する輸送方法です。
ドライバーを交代するだけで済むため、中継地点での荷役作業が不要となり、身体的な負担を軽減できます。
荷主が取り組むべき2024年問題への対策の具体例
2024年問題への対策として、運送会社だけでなく荷主も取り組める対策がさまざまあります。
宅配ボックスの設置や中継輸送への協力など、運送会社とともに2024年問題に取り組んで行きましょう。
ここでは、荷主が取り組める2024年問題への対策について、3つ紹介します。
宅配ボックスを設置する
配達先の不在などで荷物の受け渡しができなかった場合、ドライバーは再度同じ家を訪問することになります。
1度では済まず、複数回行く必要が生じた場合など、時間外労働につながることもあり、再配達における時間と労力の負担は、ドライバーにとって大きな問題と言えるでしょう。
宅配ボックスの設置は、このような問題を解消する1つの手段となります。
宅配ボックスであれば1回の配達で済むため、ドライバーの負担が軽減できます。特に小口配送の荷物においては、再配達の時間を短縮できるだけでなく、運送業務の効率化も図れるでしょう。
荷物を受け取る側にとっても、自分の都合に合わせられる点がメリットとなります。
250~300km圏内に中継地点を作る
250〜300km圏内に中継地点を作ることで、中継輸送が可能となります。
中継輸送は、長距離や長時間に及ぶ輸送の際に、中継地点で他のドライバーと乗務を交代する輸送方法です。中継地点を作ることで、各ドライバーの走行距離が削減できるため、ドライバーの日帰り勤務が可能となります。
中継輸送の導入は、ドライバーの長時間労働を削減できるだけでなく、ドライバーのワークライフバランスを推進させることにもつながります。
荷物の積み下ろしを機械化する
手作業で行うことが多い荷物の積み下ろしは、作業に時間がかかるほか、ドライバーの身体的負担が増えるといった課題を抱えています。
積み下ろしを機械化できれば、荷役時間の短縮やドライバーの身体的負担が軽減できるでしょう。
また、積み下ろしで発生するドライバーの待ち時間短縮にもつながるため、結果的に運送時間の確保、長距離輸送にも対応できるようになるでしょう。
物流業界における「2024年問題」の走行距離への影響について知っておこう
働き方改革関連法の施行は、労働者の労働環境を健全にするためのものですが、運送・物流業界では走行距離の減少により、多くの課題が生じるでしょう。
運送会社・荷主どちらも、2024年問題で行える対策があるため、企業ごとに積極的に取り組んで行くことが大切です。
物流業界においての「2024年問題」の走行距離への影響をよく理解し、さまざまな課題の解決に向けて動き始めましょう。