トラック整備の基本的な知識とは?各点検内容と日常点検に使う工具を紹介
- トラックドライバー
「トラックに不調があるけど、どこを整備すればいいか分からない」
「日常点検のやり方が合っているのか不安がある」
「トラック整備って難しそうで苦手」
物流や運送業に欠かせないトラック運転ですが、いざトラックに不調が起きたり保守点検が必要になった時、このようにトラック整備に自信がない方もいるのではないでしょうか。
この記事では、トラック運用にあたって必要なトラック整備の種類と内容、実際の整備に必要な工具の使い方といった基本知識を紹介していきます。さらにトラック整備のメリットも紹介しています。
この記事を読むことで、トラック点検で何を見るのかが分かるため、トラック整備に苦手意識を感じている方でもスムーズに点検を行うことができるでしょう。
ぜひこの記事を読んで、ご自身が運行するトラックの整備を実施してみてください。
トラック整備には種類がある
トラック運転においては、定期的な点検と整備による保守管理が国によって義務付けられています。国土交通省が定めるトラックの点検整備には『日常点検整備』『定期点検整備』の2種類が挙げられます。
トラックドライバーとしては基礎知識の1つでもあるため、それぞれのトラック整備の内容や知識をしっかり押さえていきましょう。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
日常点検整備(運行前点検)
日常点検整備とは、運転前に行う日常的な点検整備として、ドライバー自身が実施するトラック整備を指します。
整備工場による点検と違って内容も簡単な項目が多く、トラック整備に関する基本的な知識と工具さえあれば実施できるようになっています。特にトラックは自家用車と比べて公共性が高い車両のため、1日1回の日常点検整備が必要です。
ここでは、日常点検整備で何をチェックするべきか、内容を見ていきます。
タイヤ
タイヤの日常点検では「空気圧」と「損傷・摩耗状態」を確認します。
空気圧はタイヤが十分冷えている状態で、タイヤゲージで測定・点検します。 ドアピラー部にある標準空気圧表示プレートを参考に、不良があれば標準空気圧に調整しましょう。必要に応じてスペアタイヤも点検します。
次にタイヤの接地面や側面に目に見える損傷がないかも見ていきましょう。亀裂の有無と一緒に金属片や石などの異物が刺さったりしていないか、タイヤ全体を確認します。
タイヤの摩耗に関しては、異状な摩耗状態がないかどうか、タイヤ溝の深さが十分残っているかを見ます。残り溝の目安はトラックの種類によりますが、スリップサイン(摩耗限度表示)がタイヤに現れた状態がタイヤ溝が摩耗している合図です。
また、車両総重量8トン以上の大型トラックの場合は、ディスクホイールの取付状態もチェックが必要です。ナットやボルトの破損・脱落、長さの不揃いを目視点検します。緩みがないかどうかは点検ハンマーでナットを叩き、振動や音の違いに注意して点検していきます。
ブレーキ
ブレーキは主に「ブレーキ液」「ブレーキレバー」「ブレーキペダル」の状態を点検整備していきます。
ブレーキ液はタンク内の液量が『OIL LEVEL』と『MIN』の線の間にあるかどうかを見ます。液量が少ない時はブレーキ液を補充します。その際にホコリや水などの異物が混入しないように気を付けましょう。
ブレーキレバーは引きしろが適切かどうかを確認します。ブレーキレバーを戻した状態から静かに引き、引きしろのノッチ音が車両に設定された規定範囲内に収まっているか音を聞いてチェックします。
ブレーキペダルは踏みしろ・効き具合がスムーズに動作するかを点検します。ブレーキペダルを踏み込んだ時に大きな引っかかりがないか、遊びが適切かチェックしていきます。実際に乾燥路を走行し、ブレーキが片効きせず十分に効いているかも確認しましょう。
またエアブレーキがあるトラックは、ブレーキチャンバとブレーキドラムの点検も必要です。ブレーキチャンバはロッドのストロークが適切か、ブレーキドラムはライニングとの隙間が合っているかを見ます。ペダル踏み込み時に空気の排気音が出ているかも点検しましょう。
エンジン
エンジンは「エンジンオイル」「エンジンの動作状態」をチェックしていきます。
エンジンオイルは、エンジン始動前かエンジン停止から30分以上経った状態で点検を始めます。オイルレベルゲージを使ってオイル量が適正かどうかを確認し、不足している場合は補充しましょう。
エンジンの動作状態は、実際にエンジンを始動してアイドリング回転に異音や引っかかりがないかを確認します。また、少しずつエンジンを加速していき、アクセルペダルがスムーズに動くかも見ます。
バッテリー
バッテリーは「バッテリー液量」が適切かどうかを点検します。
バッテリーケース内の液量が『UPPER』から『LOWER』の間にあるかを目視し、不足していれば補充液か蒸留水を補充しましょう。補充の際は必ず充電します。
バッテリー液量が『LOWER』以下のまま使用すると、露出した劣化部分から出る火花でバッテリーの破裂・爆発が起こる可能性があります。またバッテリーの寿命を縮める原因にもなるため、日常点検での確認が重要です。
エアタンク
エアタンクは「エアタンク内に水が溜まっていないか」を確認します。
通常は内部にあるエアドライヤによって排水がされていますが、エアタンク内に水が溜まっている場合があります。その際はエアタンク下のドレーンコックを開いて排水しましょう。
ただし排水量が通常よりも多い時は、エアドライヤ内部の乾燥剤が劣化している可能性があるため、整備工場での点検が必要です。
灯火装置・方向指示器
灯火装置と方向指示器は「正常に点灯するかどうか」を目安にします。
作動させて各ランプが点灯・点滅するかを確認するのはもちろん、ランプのレンズ部分に汚れや損傷が見当たらないかをチェックしていきます。点灯テストの際は、照射方向や明るさに異状がないかも確認しましょう。
ウィンドウォッシャー
ウィンドウォッシャーは「ウォッシャー液」と「噴射状態」を点検します。
ウィンドウォッシャータンク内のウォッシャー液が十分補充されているかどうかを確認し、不足していれば補充しましょう。このタンク内が空の状態のままウィンドウォッシャーを作動してしまうと、モーター破損の原因に繋がります。
補充が十分であれば実際にウィンドウォッシャーを作動させ、噴射位置と噴射量が正常か確認しましょう。この段階で噴射しない場合はウォッシャーノズルの穴が詰まっている可能性があるため、細い針を穴に入れてウォッシャーノズルの詰まりを取る必要があります。
ワイパー
ワイパーの点検整備は「拭き取り状態」が正常にできているかを確認します。
ウィンドウォッシャーを作動させた後にワイパーを動かし、ウォッシャー液の拭き取り状態を見ていきます。この時に拭きムラやビビリ音がある場合は、ワイパーブレードを点検して劣化や不良がないかチェックしましょう。
同じように『INT(間欠)』『LOW(低速)』『HI(高速)』の3段階の動作状態も、忘れず点検しましょう。
定期点検整備
日常点検整備が毎日行う整備に対し、定期点検整備は一定の期間ごとに実施する、より詳細な点検整備を指します。
トラックの場合、定期点検整備には「3ヶ月点検」と「6ヶ月点検」が定められています。さらに専門的な知識が問われるため、国の認証を受けた整備工場での実施が必要です。
対象車両によって定期点検整備の種類が異なるため、自分が携わっているトラックがどちらの定期点検整備なのか、違いを把握しましょう。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
3ヶ月点検とその内容
業務用・自家用を含めた大型トラックを対象に、3ヶ月ごとに点検を実施します。
点検項目は、ハンドルなどのかじ取り装置・ブレーキなどの制動装置・タイヤやホイール周り・サスペンションなどの緩衝装置・バッテリーやエンジン周りなどの計50項目となっています。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
出典:自動車点検基準|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800070
6ヶ月点検とその内容
自家用の中小型トラックを対象に、6ヶ月ごとに点検を実施します。
3ヶ月点検よりも項目数が少なく、シートベルトやボルト・ナットの緩み、各部品の損傷状態など、日頃のトラック運転で摩耗しやすい箇所を中心に計22項目点検します。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
出典:自動車点検基準|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800070
定期点検記録簿とは
定期点検記録簿は、該当車両のこれまでの点検結果と整備概要を記録したものであり、該当車両に備え付け・一定期間の保存が義務付けられています。
過去の点検整備記録を確認するだけではなく、消耗部品の交換時期を判断できるなど、トラックの安全な保守管理に活用することが目的です。
保存期間は定期点検対象によって異なり、3ヶ月・6ヶ月点検であるトラックの保存義務期間は1年と定められています。ただし国土交通省は、保存義務期間に関わらず「生涯記録簿」として、可能な限りの長期間保存を推奨しています。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
出典:自動車点検基準|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800070
車検整備
車検整備とは、その車両が国の定める保安基準を満たしているかどうかをテストする『車検』を目的に行う車両整備のことを指します。
故障などのトラブル防止のために行う点検整備と違って、運転車両として最低限の保守管理ができているかをチェックします。車検は法的に義務付けられている点検であり、この車検に通るための車検整備は重要な整備となっています。
こちらではトラックの車検整備の基本的な知識と内容を紹介します。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
車検整備の内容
トラックの車検有効期間は1年(総重量8t未満の新車登録のみ2年)とされているため、車検整備も有効期間に合わせて1年間隔で実施します。項目によっては個人で行うこともできますが、国から車検整備の認可を受けた整備工場で実施してもらうのが一般的です。
整備項目は、バッテリーなどの「エンジンルーム点検」、運転席周りの「室内点検」、タイヤなどの「足回り点検」、車体やマフラーなどの「下回り点検」が主になっています。
料金は整備工場によって違うため、複数の車検整備業者の見積もりを比較検討するのがおすすめです。
出典:道路運送車両法|e-Gov法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000185
トラック整備を行うメリット
トラック整備と言っても時期や点検整備内容は様々なものがあります。こうした多種多様のトラック整備を機械的に行うのではなく、トラック整備のメリットを意識した上で取り組むことが重要です。
こちらでは、トラック整備によって得られるメリットを見ていきましょう。
- 事故などのトラブルを防ぐことができる
- 社会的な信用度が上がる
- 故障前に対策することでリスクとコストが軽減できる
- 燃費を良くすることができる
事故などのトラブルを防ぐことができる
国内の交通事故件数は減少傾向であるものの、車の運転に携わっているならば交通事故が起きる可能性は考慮しないといけません。特に物流に関わる事業用トラックでは、交通事故による死亡率が自家用乗用車に比べて高い傾向にあります。
トラックによる交通事故の原因は様々であり、車両故障もその1つです。その中でも、エンジントラブルを筆頭にした駆動系装置の整備不良が原因の事故が多く発生しています。
こうした整備不良のトラブルは日頃の点検整備で気付けることが多く、未然にトラブルを防げるでしょう。
社会的な信用度が上がる
交通事故などの車両トラブルを防ぐことは安全な走行ができるだけでなく、車両管理が正しく行えているという社会的信用にも繋がると言えます。
トラック運転業務では、集配時間の厳守や積荷の状態維持が必要になってきます。事故を起こしてしまうと、集配時間が守れなかったり積荷の破損のリスクが高まったりします。事故内容によってはクライアントの信頼を失って業務をキャンセルされる場合もあるでしょう。
こうした社会的リスクを抑えるためにも、トラック整備の実施はおすすめです。
故障前に対策することでリスクとコストが軽減できる
日常的な点検整備は、部品交換などのコストや時間がどうしてもかかります。そうしたコストを気にして、点検整備を怠ってしまうドライバーも少なくありません。
実は日頃の点検整備のコストよりも、故障後の修理によるコストとリスクの方が大きいため、普段の点検整備は結果的にコスト軽減に繋がります。
実際に整備不足による車両故障が発生した場合、修理費用はもちろん、故障部分が拡大して余分な整備費用がかかってしまいます。さらに修理や整備により車両稼働率が減り、業務にも支障をきたすというリスクもあるでしょう。
また、故障による事故が起きた際、クライアントから損害賠償や補償費負担を求められるリスクも考慮しないといけません。
こうしたリスクと最終的なコストを比べると、トラック整備によるコストは惜しまず日頃から実施していくことが大事だと分かります。
燃費を良くすることができる
日常的な点検整備を実行することでトラック本来のパフォーマンスが発揮され、整備不良状態に比べて燃費性能の向上に繋がります。
例えば燃費の要であるエンジン部分の整備の他に、タイヤの空気圧などを適正にすることで燃費向上が見込めます。エンジンオイルやタイヤは消耗していくもののため、定期的な整備による保守管理が必要です。
燃費は運送業界でもコスト割合が高いため、燃費向上は大きなメリットとなっています。
日常点検整備で使う工具
ドライバー自身で行う日常点検整備は、目視でできるものもあれば工具による整備が必要なものと様々です。あらかじめトラックに必要工具を備え付けていると、日常点検整備に取り組みやすくなります。
点検整備内容の知識と同じく、使用する工具の知識もしっかり把握しておきましょう。
ドライバー
様々なねじ部品の締め付け・取り外しを行うための工具です。先端がプラス形状かマイナス形状の2種類が一般的であり、ねじの形やサイズに応じて使い分けます。
シンプルな用途である分サイズ種類がとても多い工具なため、点検整備したいトラックのねじ部品に合わせて用意する必要があります。
スパナ
ボルトやナットの締め付け・取り外しをする工具です。片口タイプとサイズ違いのある両口タイプが一般的で、片口タイプはレンチなどの別工具と一体化しているものもあります。
スパナ口にボルトやナットを挟み、力を入れて回す使い方をします。力をいれすぎたり、ハンマーなどで無理に回したりすると、部品やスパナ口が傷みやすくなるため気を付けましょう。
ソケットレンチ・トルクレンチ
レンチはスパナと同じく、ボルトやナットの締め付け・取り外しに使う工具です。ソケットとハンドルを組み合わせて使うタイプをソケットレンチ、適正トルクを元に締め付けをするタイプをトルクレンチと言います。
ソケットレンチは形状の異なるソケットを取り換えるだけで、特定のボルトやナットに対応できるのが利点です。サイズや形状違いのレンチを複数用意しなくてすむため、整備したい箇所にすぐ対応できます。
トルクレンチは、ボルト・ナットの締め付けに適切な強さを表す『トルク』を確認しながら作業ができるレンチです。メモリでトルクを確認する「直読式」と、音や光で適正トルクを知らせてくれる「シグナル式」の2種類があります。
ソケットレンチ・トルクレンチ共に、シンプルな形状で浅く広く対応ができるスパナよりもピンポイントで部品対応ができるのが特徴です。部品の状態によって使い分けましょう。
ジャッキ・タイヤレバー
ジャッキ・タイヤレバーはどちらもタイヤ交換をする時に用いる工具です。
ジャッキは、タイヤ交換で車体を持ち上げるために使う道具です。「機械式」「油圧式」「空気式」の3種類があり、一般的には機械が錆びにくい油圧式、大型トラックでは持ち上げる力が強い空気式がよく使用されています。
タイヤレバーは、ホイールからタイヤを脱着する時に使用します。2本準備しておくと、日常点検整備の際に自分でタイヤ組み換えがしやすくなるでしょう。
トラック整備の基本的な知識を深めよう
昔に比べると車両部品の品質も向上して故障も少なくなっていますが、自動車メーカーでは車両の保守管理ができていることを前提にトラックを製作しています。運行していく上で部品の劣化・摩耗は出てくるため、定期的な点検整備が必要です。
トラック整備は、トラックを運転する上で安心安全な運行条件の1つになっています。トラックに携わる仕事を検討されているなら、ぜひトラック整備の基本知識を深めておきましょう。